これを書いている12月21日の時点で今年は37冊本を読んだらしい。加えて今読書中のものが2冊あるので、それが無事年内読み終わればという見込みで39冊。よく読むひとからしたら大した冊数でもないと思うけど、本を読むのが遅い自分としてはまあまあそこそこ読んだ方なのではないか。
なんて、その手の量的な話はあまり意味がないので多かろうが少なかろうがよいとして、それよりも問題なのは読んだそばから細かい内容がすっぽ抜けてく質的な部分の方だったりするわけだけど、そんな自分でも読んで良かったなという本があるにはあるので、そういうものまで忘れてしまわないように書き留めておく。
今年読んでとりわけ良かった本3冊
- 『美の進化 性選択は人間と動物をどう変えたか』リチャード・O・プラム
- 『女と刀』中村きい子
- 『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』川本直
並べてみると、図らずもどの本もジェンダー的なテーマが扱われており、あーハイハイこいつはそういうモードなのねと思われそうな並び。実際手にとって購入してる時点で間違いないんだけど、そこまで真面目にこの問題について勉強しようと思ってる人間だとひとに思われてしまうと、ちょっと意識のギャップにつらくなってしまうかもしれない。でも考えたいことは確実にある。そのくらいの感じ。
で、それぞれについて簡単に紹介しておくと、『美の進化』は性淘汰について鳥類学者によって書かれた人文書。単なる個体が生き延びる戦略としての進化ではなく、メスから配偶者に選ばれて子孫を残すため、オスたちが習性や形質(クジャクの尾羽とかマイコドリのあずまやとか)を進化させていくという事実があるのだが、それはつまりメスが主体的に性や美についての欲望を満たすための選択の自由を得るための進化であろうという話が、 きれいに人間のフェミニズム的なテーマに導かれていくのがエキサイティングで読んでてとても楽しかった。また単純にいろいろな鳥の特徴について知るのだけでも十分面白い。カモの性器がオスメスどっちもあんな事になっていてしかも集団でレイプする事もあるとか知らなかった。
(https://scrapbox.io/isbsh/美の進化_性選択は人間と動物をどう変えたか)
『女と刀』は60年代に書かれたものが今年になって新しく文庫化されたものらしく、文庫化にあたって単行本発行時の鶴見俊輔さんによる解説も収録されているという事で興味を持って読んだ。そしたら思い切りハードコアなフェミニズム文学でもありディストピアSFのような近代日本の記憶でもあり結構食らってしまった。主人公キヲのあまりに苛烈な生き様にはもうちょっとくらいマイルドな落とし所とかないの…的な気持ちには正直なってしまうところもあるのだけど、家や血筋なんてひとに理不尽押し付けていい理由になんないでしょっていう一貫した態度は清々しくもあり、ぐうの音も出ない。
(https://scrapbox.io/isbsh/女と刀)
『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』は「現実の欧米文学史を下敷きにした、ジュリアン・バトラーという全く架空の人物の回想録の日本語訳」という体のフィクション。立て付けとしては、回想録を書いているのはバトラー本人ではなく、生涯にわたってバトラーをサポートしていたジョージ・ジョンという作中において一人称で語っている存在なのだけど、これもまた架空の人物であり、実際の作者である川本直氏は翻訳者ということに本の中ではなっている。本編を読んでいる時には、その入り組んだ構造はあまり気にせず、ただフィクションとして受け取っているだけでまあ普通に面白いお話だよな、などと思っていたら、あとがき(という体のなにか)の段階になって現実の作者がバトラーのファンであり翻訳者という体で物語に介入し彼らの真実に迫る…という展開が繰り広げられるところで面白味のギアが何段か上がる感じがあり、めちゃめちゃ楽しい読書体験だった。
(https://scrapbox.io/isbsh/ジュリアン・バトラーの真実の生涯)
以上です。
来年はもう少し社会保障の話についても読みたい。